面白半分

ブログの内容は個人の感想、バイアス満載。異論しか出てこないようなことを書いてます。あと、文章を書く練習中。

「手相の勉強をしている」と声をかけてくる人に連れ去られてみた

最近はあまり見かけない気がしますが、駅で「手相の勉強をしてるから手を見せろ」と声をかけられたことはないでしょうか。本当にまじめに手相の勉強をされてる方もたくさんいらっしゃるので、私が体験したのはごく稀な例ということでご了承いただけると幸いです。

数年前の話です。
都内中央線の某駅で声をかけられます。22時くらいでしたでしょうか。曰く、――手相の勉強をしているのであなたの手を見せてくれないか。

バイトを終えて後は家に帰るだけ、何を見てくれるんだかお手並み拝見、と手を見せてあげました。「あなたは頭脳明晰で論理に優れ、芸術的なセンスが云々、結婚は…」と一通りの分析をした後、急に驚きの声を上げます。

「これはすごい相です!」
「はぁ、すごいんですか。」
「この線の上に十字状の線が被さっているでしょう?これは運命の
 転換期を示していて、あなたは今まさにその状況にあるのです!」

あ、怪しすぎる…。俄然興味が湧いてきました。彼は続けます。

「あなたを是非、私の師匠に紹介したい。私の師匠は1年の半分以上を海外要人の
 運勢を占うために外国に住んでいるのですが、今ちょうど帰国中なんですよ!
 あなた、めちゃくちゃ運が強いです。これは絶対何かの巡り合わせに違いありません!
 いかがでしょう?今から一緒に師匠の所に行きませんか?」

そ、そう来たかー。ここまで来たら見れるもん見とくかぁ?そうだ、ちょっと時間かけてこいつの見極めをして、やばそうなら逃げよう。

私「とりあえず、腹減ってるんでメシ行きません?」
何だかよく分からなくなってきましたが、彼は私に付いてきました。ゆっくりと彼の素性を明らかにしていきます。手相の学生である、韓国語の試験勉強をしている、一度深く悩んで傷つき、手相と今の師匠に救われた、師匠の事務所はここから歩いて10分ほどだ、云々。そう話す彼の表情は、このタイプの活動をする人独特の力のなさ、目の弱さ・虚ろさを湛えており、社会学や人間の行動・心理に興味のあった私は彼の師匠に会ってみることにしました。時間は既に24時を過ぎています。

彼らの事務所はその駅から歩いて10分ほどのマンションの1室。
師匠は落ち着いた雰囲気の小奇麗な女性でした。彼女は優雅かつ明快に私の性格分析や職業適性、姓名による運勢判断等を展開していきます。その内容は本当に面白い。2時間ほども占ってもらい、既に深夜2時〜3時といった時間帯。私を引っ張ってきた学生は居眠りを始め、私はぼちぼち嫌な予感がしてきていました。その矢先、師匠は急にこんな話を語り始めます。

「○○さん、あなたは自分の運勢を開きたいとは思いませんか?」

うーむ。運を開くか。今までの人生、運に頼ったことはないしこの先頼ろうとも思わんのよね。
私「運ですか…。ま、閉じるよりは開いた方がよさそうですが。」

そう言う私に師匠は小奇麗なパンフレットをすっ、と差し出します。
「あなたが運を開く唯一の手段、それはここに行くことなのです。」

何かキター。見るとどうも何かの施設のパンフでした。しかしそれが何なのかはよく分かりません。
私「先生、先ほどまでのお話は手相・姓名ともにとても秩序立っていたし、非常に興味深く思いました。
 しかし、『ここに行けば運が開ける』というのはあまりに唐突過ぎるし意味が分かりません…。」

師匠は表情を変えず、「そうですか、では少しお待ちください。」と言って控え室に下がってしまいました。
そろそろ逃げないとやばいかな。私は居眠りしている学生を横目に、足早に玄関に向かいます。と、靴紐を結ぶ私の肩をぐっ、と掴む者がありました。
「どこに行くつもりですか?」
居眠りしていた学生が起きだして私を追いかけてきたのでした。時間も深いし帰らないとまずい、明日も仕事だ、と振り切ろうとする私を引きとめ、「まだ終わってないし、せめて先生に挨拶だけしていけ」と師匠を呼びに控え室の扉を開けたとき、控え室の中に貼ってある強烈な毛筆書きのスローガンが見えたのです。
――達成しよう、夢の南北統一
うわー。もういいです。私は挨拶無しでマンションを飛び出し、家路に付きました。途中でまた学生が追いかけてきましたが、ガン無視して追い払いました。「少しお待ちください」と言った師匠は部屋で何を用意していたのでしょう。学生も深夜の2時3時まで事務所にいてあの後どうやって帰ったのだろう。いろいろその後考えましたが、これが手相の学生にお付き合いした顛末です。いろんな人がいるなぁ。